2006年04月10日

地区計画でマンション建設を阻止!?

□反対運動は住民のエゴ?

「おまえ、マンションの反対運動してるんだって?」「あぁ、一応ね」「なんでまたそんなことしてるの」「なんでって、建って欲しくないから」「建って欲しくないって、おまえ何の仕事してるの?おかしいじゃん!」
大学時代の友人からの電話である。彼は、大手のゼネコン設計部に勤めていた。
「そうかなぁ。何でも建てればいいっていうものではないし、周辺の環境を考えると賛成できないからね」
「でも、マンションが建つ地域なんだろ?そこに建てるなっていうのは、住民のエゴだぜ。」
「エゴなんていわれるとは思わなかったよ。まぁ、君も自分の家の隣に計画されたらそういう気持ちになるよ。」
「いいや、ならないね。それが俺の仕事だもの。まぁ、そんなことしてたら飯食えなくなっちゃうから、いい加減にやめることを勧めるよ。じゃぁね。」

彼だけではなかった。私の廻りにも私の行動に疑問を投げかける人たちがいた。
「どうせ建っちゃうんだから、そんなのに熱を入れても無駄でしょ?」
「建たないわけないじゃん!これが建たなければ、俺の物件なんてもっと建たないよ」
「デベロッパーは、利益率もちゃんと計算して計画しているんだから、何言っても計画が変更されるなんてあり得ないよ。そんなことわかっているでしょ?」
確かに彼らの言うことには一理ある。というか、それが正論なのかもしれない。既成の住宅地に新参者が来たら「ここでは、このようにしてもらわないとならない」というのは、住民のエゴなのか?そんなことを考えていると、次の一手などまったく思い浮かばなかった。
「やはり、計画変更も無理かなぁ。むしろ工事協定書の内容を充実した方が、近隣の人たちのためかもしれない。」などと消極的な方向へ気持ちが落ち込んでいた。□一筋の光?
 法的に問題がない限り、建物を建てることができるわけだが、仕事柄「法」というとすぐ建築基準法を想像してしまう。しかし、マンションが建てられるという用途地域を決めるのは、都市計画である。そもそも、この地区を第二種中高層住居専用地域に指定した都市計画が原因だということに気がついた。
 誰がいつどのように第二種中高層住居専用地域と決めたのか?おそらく市報等に掲載されていたのだろうが、興味のないときにはその手の配布物に目を通さないものだ。後で古くから住んでいる近隣の人たちに聞いてみたが誰も覚えている人はいなかった。
 つまり理屈では、用途地域が変更になれば、マンションは建たないことになる。でも、用途地域の変更なんてそんなに簡単にできるはずがない。
 そこで、同じ建築畑の友人に相談しても埒があかないので、都市計画側での展開を求めて、都市計画を専攻した大学の友人にコンタクトを取った。
 夕方、彼女が事務所を訪ねてくれた。これまでの経過を説明すると、「よく頑張っているね」というねぎらいの言葉が。他の友人たちと明らかに応対が違い、なんとなく心地よい。
「10年前の反対運動の時に何か手当をしておけば良かったね。」
「そうなんだよ。地主のおばあさんが元気な頃に建築協定を作っておけば、こんなことにならなかったと後悔しているよ。」
「建築協定も一つの方法だけど、建築協定には有効期間があって、長くても10年で更新作業を伴うの。そうすると、建築協定は住民全員の合意が必要なので、問題の敷地が協定区域から抜ける可能性もあるから何ともいえないな。」
「そうなの?更新が必要なんだ。そうすると世代も変わって、考え方も変わると建築協定の存続って難しいんだね」
「私は建築協定を否定する訳じゃないけど、「建築協定」は、建築基準法に基づくもので、都市計画には、「地区計画」というのがあるんだけど、知っている?」
「「地区計画」という言葉は、基準法の条文にもたびたび出てくるから、見たことはあるけど、具体的なことまでは、知らないなぁ」
「端的に言うと、行政が行う建築協定のようなものなんだけど・・・。つまり、建築協定は、土地の所有者たちが自主的に運営しなければならないけど、地区計画は、決定すれば、行政側で審査・チェックが行われるので、住民の負担は少なくなるし、条例化もできのよ。」
「へーっ。そんな違いがあるんだ。用途地域の制限もできるの?」
「もちろん。高さの制限や壁面後退、屋根や壁の色の制限もできるわよ。」
「でも、地区計画だって住民の合意が必要でしょ?マンション業者が合意するわけないじゃない」
「都市計画に全員合意はあり得ないの。そりゃ全員合意が望ましいけど、どんなに時間をかけたって、反対する人は反対するので、多数決になるわけよ。地区計画なら2/3の合意があれば可能だと思うよ。」
「なるほど、マンション業者の反応は、計算外としていいわけだ。そうなると2/3なら、自信はあるけど、どの範囲までの2/3になるわけ?」
「そうねぇ、規模は、0.5ha以上あればいいんだけど、街区で分けないとならないから、この範囲ね」少々範囲は広がったが、マンションの計画地を取り囲むような形になり、面積を測ると約3.5haだった。
「よくそんなにスパっと範囲を決められるねぇ。廻りの状況も見ていないのに」
「そお?長年のカン!都市計画は建築みたいに数ミリの精度を要求しないから」
「なんとなく地区計画のことがわかってきたけど、そんなに短時間じゃできないでしょ?とにかくあのマンションの計画を止めさせたいんだけど可能だと思う?」
「行政は、マンションの反対運動で地区計画を作成することはしないので、いかに住民の気持ちをアピールできるかね。当然、住民の合意も必要とするから、ある程度の時間はかかるけど、都市計画法が改正されて、都市計画提案制度が使えるようになったから意外と早く策定できるかもね。」
「都市計画提案制度って?」
「都市計画法が改正になって、行政以外にも住民やNPOなどがまちづくりの発意者になれる制度で、この制度ができる前は、住民がいくら頼んでも、行政は動く必要がなかったの。つまり住民側で案を作れば、理屈上は、行政がそれを受け取る形になるから手続きが早くなるというわけ。実際には、行政によって対応が違うと思うけど。」
「本当?なんか気が進まないなぁ。案を作って提出というのは、結構大変な作業じゃないの?それと、過去にそんな例はあったの?」
「実は、私が担当していた区で同じようなマンション反対運動があってね。地区計画を策定してマンション建設を阻止しようとしたの。これには、区も全面協力して、あと一歩で策定できたんだけど、最後の最後で詰めきれずに間に合わなかったわ。」
「期間は?」「約6ヶ月ぐらいだったかな?これより早くは無理よ。都市計画法でいろいろとしなくてはいけない手続きがあるから」

□逆転満塁ホームランに期待?

「6ヶ月かぁ・・・。その頃には、確認申請もおりているよ。それにマンションの計画の後で地区計画を作るのは、後だしジャンケンみたいで、役所が動いてくれるかなぁ。やはり無理じゃないの?」
「そう簡単に諦めないでよ。可能性がゼロじゃないんだから、やってみたら?それと、もし今回間に合わなかったとしても、次にマンションの計画が出ることはなくなるし、やらないとまた同じような反対運動をするのよ。」
「わかったよ。近隣の人たちとも話してみるよ。わざわざ来てくれてありがとう。」
「いいえ、千載一遇のチャンスだから」
「えっ?」あとでわかったことだが、都市計画家でも地区計画を行うチャンスは多い訳ではなく、しかも知り合いの地区で可能性があるというのは、滅多にないからという意味だったらしい。
 なかなか内容の濃い話だったが、正直なところ雲をつかむようなイメージだった。建築の確認申請や許可申請なら自信はあるが、地区計画の提案書となると、どんな体裁なのかもわからないし、実際に進めるとしたら、廻りの協力が得られるのかも心配だった。
 しかし、他に有効な手があるわけでもないので、ここは、一発逆転のホームランにかけるしかなかった。


*地区計画とは
 住民の合意に基づいて、それぞれの地区の特性にふさわしいまちづくりを誘導するための計画で、都市計画法第十二条の四第一項第一号に定められている。この制度は、ドイツの地区詳細計画制度などを参考に、昭和55年の都市計画法及び建築基準法の改正により創設された。
 なお、都市計画法では、地区計画と「集落地区計画」、「沿道整備計画」、「防災街区整備地区計画」を合わせて地区計画等と定めている。
 また、地区計画では、今回のような制限をすることもできるが、逆に制限を解除する方向にも使うことができる。例えば、東京の中央区では、機能更新型高度利用地区という地区計画を導入しており、土地の高度利用を促進するために容積率の最高限度と最低限度を定め、また、一定の条件を満足した場合に容積率を緩和し指定容積率を超えた建築物を建築することができる。
 
*都市計画提案制度とは
 平成14年の都市計画法改正及び都市再生特別措置法の制定で創設された、住民等の自主的なまちづくりの推進や、都市再生緊急整備地域内において、民間等による都市再生の推進を図るため、土地所有者、まちづくりNPO等あるいは民間事業者等が、一定の条件を満たした場合、都市計画の提案をすることができる制度。
posted by F at 00:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
長く理屈づけているが、
要は建てる人と周囲の人を規律しているのは
法律であり条例である。その調整をはかっている。
調整のみならず、経済の活性化と地域保護の調整など
様々な調整をはかっている。はかっていないとしたら、
それは議員の責任であり、それを投票した、または投票にスら行かないあなた方の責任である。
昔は、村の長等が封建的に決めていたのを、民主主義で決めるようになってるのに、何故前から住んでる者の封建制が復活しているのだ。
人同士で建てる建てないをやったら、紛争の元である。
法の規律に反していたら、いくらでも反対してよい。
でもそうでなければ反対する理由はない。
むしろ、法改正に血道を注ぐべきである。
建つまで無関心に改正を叫ばなかったリスクを
どうして法に沿って建てる人間が負わなきゃならないのか。

そして前から住んでいる者も法に沿って建てたから
住めているのだろう。どうして、次の人が法に沿って建てるのを反対するのか。
自分がオッケーで他人は駄目と、それをエゴと
言われるんだよ。

Posted by 伊藤公一 at 2014年11月06日 09:21
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